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コラム#1

築地は世界一の魚市場じゃない。世界“唯一”の魚市場です。
料理評論家 山本益博

1位というと2位3位がありますが、築地はオンリーワン。世界中をみても、これに匹敵する魚市場は他にありません。
築地は、日本の食文化の歴史の中で海産物を生で食べるということのベースに成り立っています。魚介が海から運ばれ、生で食べるのに一番美味しい状態を保持するにはどうしたらいいか、が考えられています。
仲卸さんは、料理人の好みを熟知し、厨房で調理するタイミングで最適な、一番美味しい状態で届けることまで計算している。商品知識があるだけでなく、食べごろまで熟知しているプロフェッショナルがいる市場は、世界中に日本だけです。

私は今から40年以上前に、すし屋の親方に連れられて初めて築地を訪れました。朝5時前からのまぐろのセリの活気ある光景に圧倒され、その魚介の極めて新鮮で豊富なことに感動を覚えました。これらが東京の胃袋を支えていることに、改めて「食都東京」に胸を張りたくなります。築地は、銀座から歩いてわずか15分、自転車で5分ですが、この距離が今や世界を代表する美食の街「銀座」を育ててきたのです。また、海外の人が必ず驚くのですが、夏場に訪れても場内に魚の匂いは漂ってなく、蝿一匹いないことにもいつも感動を覚えます。
さらに、場内の仲卸店舗で働く人たちの顔立ち、振る舞いのかっこいいこと、魚同様に活きがよくって、これぞ東京人のお手本、まさに「江戸前」の伝統なんだと思います。それは、何より毎日各地から届く飛び切りの魚介、それがたとえ鰯一尾でも「敬意」を忘れずに取り扱い、と同時に世界で比類のない魚市場で働いている「誇り」から生まれてきているのでしょう。

命の危険を承知で海に出て仕事をするプロフェッショナルの漁師たちの情熱があり、港に届いた魚介を鮮度と質を落とすことなく築地へ運ぶプロフェッショナルの運搬人の熱意があり、それをすし屋、料理屋へ下ろすプロフェッショナルの仲卸の方々の魚介への敬意があって、東京の魚文化、ひいては日本の食文化が生まれてきたのだと思います。
日本人の海の幸に対する尊敬の念が結集している象徴が「築地」で、それを余すところなく描き出したのが映画「TSUKIJI WONDERLAND」ではないでしょうか。